父の詫び状(向田邦子)

今回は父の詫び状(向田邦子)を読みました。
ドラマ脚本家で小説家の向田邦子によるエッセイです。

 

 

 

著者は読者の前にはテンポのよい小噺を次々に出してきます。

それらはおかしいくらい個人的なもので、誰にも語らず世から消えても不思議ではないものばかり。そういうものがどんどんお出しされます。

心地よくその流れに乗っかって読み進めると、ある時、それまでの軌跡がある「ムード」を形作っていることに気付きます。

 

例えば「あだ桜」では女性の老い、「ねずみ花火」ではふとした時に思い出す死者への懐かしさといったところでしょうか。

 

一つの章から立ち現れる「ムード」が累積して次第に著者の輪郭が見えてきます。

利発で後先考えず、自分の仕事には誇りを持ち、同性異性問わずモテて、おしゃべりが大好きで、でも他人には踏み込みきれず、厳しい父を恨めしく思いつつ、父に叱られた食卓を懐かしむそんな様子がうかがえます。

 

そんな著者が前半では自身の老いと死を意識せずにはいられなかったところから、後半になるにつれ生来の明るさを取り戻していくような物語にも感じられます。

そんな「どこを切っても著者の血がしたたる」一冊でした。 

 

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