アートの起源(杉本博司)

今回はアートの起源(杉本博司)を読みました。

著者は現代美術家で写真家の杉本博司
日経新聞で2020年7月に日経新聞で連載された「私の履歴書」が面白く、他の著作も読んでみようと本書を手に取りました。

 

 

教科書的な歴史や生物史からはみ出て形にならなかったものを、著者はアートとして再定義します。これらを踏まえてマクロ的な視点を持つことを訴える著者は本文中の千利休の姿とも重なります。

 

私が杉本博司作品に初めて触れたのは直島で行われた「家プロジェクト」護王神社でした。2008年のことだったかなと思います。

護王神社」は家プロジェクトの一つとして、2002年に公開されました。直島・本村地区の氏神が祀られている同神社の改築にあわせて、本殿と拝殿、また拝殿の地下の石室がアーティスト・杉本博司によって設計されています。本殿と石室はガラスの階段で結ばれており、地下と地上とが一つの世界を形成しています。本殿と拝殿は伊勢神宮など古代の神社建築の様式を念頭に、作家自身の美意識に基づくものになっています。

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この作品を見た時に感じたのは神聖な領域に土足で踏み込むような危うさでした。神社を建築物としてだけでなく、信仰の形さえデザインし直しているように感じて、杉本の仕事が現代美術家の範疇を超えたもののように感じたからです。
しかし同時に、そのような難しい仕事をやってのけた杉本の確信の深さも感じたことを強く覚えています。

 

本書からもそうした作品制作に取り掛かる際の「確信の深さ」がくみ取れます。 
現代美術といえば「これはアート」と言い張ればなんでもアートとなるような(デュシャンのように)一面があります。
著者の代表作の「海景」が自身が自我を意識した場面にルーツを持っているように、著者の作品が自身の深い部分から起こる(言葉にならない)欲求を元にしているように、著者の横顔は自身の活動に確信の深さを持つ(あるいは求め続ける)高潔さを感じました。

 

次回はシンニホン(安宅和人)を予定しています。