古事記 (池澤夏樹=個人編集 日本文学全集01)

6月中に読了して読書メーターtwitterで短い感想を上げていたけど、だいぶ端折った内容しか書けなかったのでHatenaBlogでもまとめます。ちょっと長いです。

 

今回読んだのは、日本文学全集01 古事記 (池澤夏樹=個人編集 )

本書は作家の池澤夏樹による古事記の現代語訳です。
古代世界で神々や天皇は作品世界で恋をし、争い、時に冒険に出かける。そんな生き生きとした物語が詰まっていました。

 

f:id:yamataka000:20200707232949j:plain

 

エピソード一つ一つは短く、浅学なyamatakaでも終始読みやすく感じました。この辺りは古事記が口承伝承をまとめたものだということが関係しているのかものしれません。

 

本書の読みどころの一つは独特の時間感覚にあります。
脚注によると古事記の世界観は「時代や順序は無関心で、神話的な無時間が流れている」といいます。実際に何世代も離れた人物が系図の中に登場したり、前後関係が崩れている場面がありますが、それは些末な事だとばかりにどんどんストーリーは進んでいきます。*1

ここにある種の大らかさを感じます。これは現代で情報の正確性・迅速性を当たり前にする代償として徹底的に否定されているものです。この大らかさの中では人々は感傷的な無時間で優しく包まれ、神話として語り継がれるのです。
このような現代社会にない時間感覚にひたるのも本書の楽しみ方の一つです。

 

特に印象に深いエピソードは二つありました。

一つはオホナムヂがスサノヲの試練に勝ったシーン。
あのオホナムヂがスサノヲから吹っ掛けられた試練を全て乗り越え、オホナムヂに試練を全て乗り越えて逃げ切ったオホナムヂに最後の言葉を叫ぶ場面。そこでスサノヲが叫ぶのは(イザナミのように)怒りや憎しみかと思いきや、意外にもオホナムヂによる新しい国の幕開けを祝福する言葉でした。

序盤でスサノヲは規格外すぎて迷惑極まりない存在でしたが、ここにきてスサノヲが他者を祝福する側に回るとは。不覚にも感動してしまいました。

 

もう一つはヤマトタケルの死の場面です。
父である天皇から疎まれたヤマトタケルは幾度となく遠征を命じられ、戦果をあげつつもついに力尽きてしまいます。

ここで連想したのは意外にも「かもめのジョナサン」でした。生前は自由に空を駆けるような気力に溢れて英雄的な活躍をするも死んでしまう、しかし魂は白い鳥として自由に空を羽ばたき、そして消えていく。時代も宗教も接点は無いがヤマトタケルと「かもめのジョナサン」のイメージが被ってしまいます。

両者とも人々の無意識の中にあるヒーロー像なのでしょうか。

 

古事記を読む前の印象はとても権威的なものを感じていましたが、読み終わってみるとこのように口承によるおとぎ話集としての側面が強く、とてもなじみ易いものだということが意外でした。

神話は古代の人々にとって規範、道徳、歴史である以上に「たのしい文学」であったといいます。本書で古事記を現代語訳したねらいは、古事記を一つの文学として偏見なく読者に読んでもらうためだったのでしょう。そしてそのねらいは大きな成功を収めていると思います。

 

次に読むのは日本文学全集02 口訳万葉集/百人一首/新々百人一首の予定です。

 

amzn.to

*1:あとがきで訳者が指摘していますが、国の成り立ちを伝えるにあたり数々の神話を一本化する編集があったためかもしれません。